税務署の税務調査の動きが活発になる季節になりました。税務署の定期異動は7月なので、新しい上司の下で手柄を挙げて評価を勝ち取ろうと精力的に活動する時期が今頃から11月あたりになります。では、税務調査は、何か申告漏れ、過少申告に対して、何かしらの確証があって動いているのでしょうか?
①「58条通知」
相続税法58条は、市町村長等から税務署長への通知制度です。
市区町村は死亡の事実を把握すると、相続税の課税に必要な情報を税務署へ通知します。特に市区町村は固定資産課税台帳を持っていますから、土地・建物などの不動産情報は税務署が把握する重要な入口になります。
ただし、「58条通知=亡くなった人の全財産リスト」ではありません。
銀行預金や証券口座を市区町村がすべて把握して、それを58条通知で税務署に送っているわけではありません。 では銀行預金はどうやって分かるのか?
ここが重要です。
税務署は、申告内容に疑問があれば、国税通則法上の質問検査権などを使って金融機関等に確認できます。国税庁の税務大学校の資料でも、相続税について、法定調書等に加え、質問・検査によって財産を把握する仕組みが説明されています。
例えば、「生前の所得から考えると、預金が1,000万円しかないのは少なすぎる」
「亡くなる直前に3,000万円が引き出されている」となれば、預金の動きを詳しく確認することがあります。そのため、死亡直前に預金を現金化すれば税務署に分からない、ということにはなりません。
証券についても、税務署にはさまざまな情報が入ります。たとえば国税庁の法定調書制度には、特定口座年間取引報告書、非課税口座(NISA)の年間取引報告書、配当関係の支払調書などがあります。
したがって、相続税申告書に有価証券が載っていないのに、税務署側の資料には株式・証券に関係する情報が存在する、ということは十分あり得ます。
生命保険は直接的で、死亡保険金については、保険会社等から税務署に「生命保険金・共済金受取人別支払調書」が提出される制度があります。これは58条ではなく、相続税法59条に基づく仕組みです。
さらに、保険契約者の変更についても「保険契約者等の異動に関する調書」があります。
つまり、「生命保険は申告しなければ分からないだろう」という考え方は危険です。
過去の所得・贈与との比較も重要です。税務署には、亡くなった人について過去の所得税申告、贈与税申告、法定調書などの情報が蓄積されています。
さらに一定の高所得・高資産者には財産債務調書の提出制度もあり、財産の種類・数量・価額などが税務署に提出されています。
したがって、過去の所得 → 資産形成 → 相続時の財産を比較することができます。
たとえば長年高額所得があった人なのに、相続財産が「自宅と預金500万円だけ」なら、「資産はどこへ行ったのか?」という確認につながり得ます。
②KSK(国税総合管理)システム
税務署が保有する全国規模の超巨大データベースがKSKシステム(国税総合管理システム)です。
税務署は画面を一つ叩けば個人の全口座残高が一覧表示されるような「リアルタイム監視」をしているわけではありません。しかし、以下のような「資産の動きにつながる情報」が網羅・蓄積されています。
過去数十年の申告・所得データ: 確定申告書、給与の源泉徴収票、支払調書など。
不動産の所有状況: 法務局からの登記変更情報(不動産を購入・売却・相続した情報)。 証券会社からの年間取引報告書、保険会社からの支払調書(高額な解約返戻金や保険金)。
高額な海外送金: 1回100万円を超える国外送金・受取の情報。
KSKシステムに蓄積された「生涯の推定獲得所得」と「申告されている資産」を突き合わせることで、税務署は「この人は生涯で〇億円稼いだのだから、手元に少なくとも〇千万円の資産(預貯金や不動産)が残っているはずだ」という仮説を立てます。
申告された数値とこの仮説に大きなギャップ(例: 稼いでいたはずなのに預貯金が異常に少ない等)があると、税務署は国税通則法に基づく質問検査権を使って銀行口座の取引履歴を遡って照会(反面調査)するため、最終的に隠し口座やタンス預金等も捕捉されることになります。
近年このKSKシステムが、KSK2に移行され始めています。KSK2はAIが組み込まれたシステムで、「AIが単独で動くシステム」ではありませんが、「AI分析の精度を極限まで引き出すためのデータ基盤」といえます。
KSK2自身がAIそのものというよりは、AI技術(AI-OCRや高度な機械学習・分析ツール)を本格的に統合・運用するために作られたシステムと捉えるのが正確です。
KSK2でAIがどのように関わってくるのか
1. 書面の「AI-OCR」による完全データ化
紙で提出された申告書や各種届出をAI-OCR(高精度な文字認識技術)で自動データ化します。これにより、電子申告(e-Tax)か紙提出かにかかわらず、すべての納税データがデジタルでKSK2に蓄積されます。
2. 税目・外部情報を横断した「AI分析(不正・申告漏れの自動検知)」
これまでのKSKは税目別(法人税・所得税・相続税など)でシステムが縦割りでした。KSK2ではこれが統合され、AI(BAツール/Business Analytics等)が全税目のデータや外部機関データを横断して分析します。
売上・経費の不整合(法人の売上時期と個人の入金時期のズレなど)
生涯獲得所得と資産形成(相続・贈与)のミスマッチ
これらをAIが自動照合し、「申告漏れの確率が高い対象」をピンポイントで抽出します。
3. モバイル端末による現地アクセス
調査官が現地(訪問先)から安全にKSK2へアクセスできるようになります。その場ですぐに過去のデータや関連情報を照合できるようになり、調査スピードや正確性が高まります。
ただ、AIが自動で「あなたは脱税です」と判定したり、税額を勝手に決定したりすることはありません。あくまで 「AIが異常値や矛盾データを網羅的にあぶり出し、人間(調査官)が効率よく税務調査に入れるようにサポートする」 という役割を担います。結果として、今まで見落とされていた不整合や隠し資産が調査の俎上に載りやすくなるのがKSK2時代の特徴です。
ですので、これからの時代資産隠しで巧妙に脱税に成功した手法もAIによって暴かれることになる確率が急激に高まること想像できますので、正しい申告に努められた方が無難かと存じます。