近年、日本各地で豪雨による河川氾濫、内水氾濫、土砂災害が相次いでいます。
千葉県でもここ数か月、記録的な豪雨に見舞われ、住宅の浸水や土砂崩れ、道路の陥没、インフラ障害など大きな被害が発生しました。
不動産に携わる立場として、今回の災害を見ていて気になったことがあります。
それは、「被害を受けている地域と、市街化調整区域には何らかの関係があるのではないか」
ということです。
そこでまず市街化調整区域とは何か?
都市計画では、土地を大きく「市街化区域」と「市街化調整区域」に分けています。
市街化区域とは、すでに市街地になっている地域、または今後おおむね10年以内に優先的・計画的に市街化していく地域です。
一方、市街化調整区域は、「市街化を抑制すべき区域」とされています。
簡単に言えば、「こちら側は街として整備していきましょう」というのが市街化区域。
「こちら側には、むやみに住宅や建物を増やさないようにしましょう」というのが市街化調整区域です。
そのため、市街化調整区域では原則として自由に住宅を建築することはできません。
では、なぜ市街化調整区域に住宅がたくさんあるのでしょうか?
ここが重要です。
市街化調整区域は、決して「絶対に住宅を建ててはいけない区域」ではありません。
法律上、一定の条件を満たせば建築や開発が認められます。
例えば、
・区域指定以前から存在していた住宅や集落
・農林漁業を営む人の住宅
・既存集落内の住宅
・都市計画法34条11号、12号などに該当する開発
・かつて存在した「既存宅地確認制度」によって建築された住宅 などです。
つまり、原則は市街化を抑制する。しかし、例外的に住宅建築を認める。という制度になっています。
1970年代以降、市街化調整区域にも住宅が増えていきました。
現在の線引き制度の基礎となる新都市計画法が制定されたのは1968年です。
高度経済成長によって、都市の周辺に無秩序に住宅が広がる「スプロール現象」が問題になっていました。
そこで、市街化する地域と市街化を抑える地域を明確に分けることになりました。
しかし、線引きをした時点ですでに住宅や集落が存在していました。
そこで既存住民の生活を守るため、さまざまな例外制度が設けられました。
その一つが「既存宅地確認制度」です。
一定の条件を満たす土地では、市街化調整区域でも比較的住宅を建築しやすい仕組みがありました。
ところが、この制度などを通じて住宅が増え、本来は市街化を抑制する場所なのに、見た目は普通の住宅地という場所が全国各地に生まれていきました。
既存宅地確認制度は2000年の都市計画法改正で廃止されましたが、その後も都市計画法34条11号・12号などにより、自治体が一定の区域で住宅開発を認める仕組みが続いています。
ここに自然災害の問題が重なります。
市街化調整区域には、河川沿いの低地、旧河道、氾濫原、、農地、山裾、急傾斜地などが多く含まれています。
もちろん、市街化調整区域だから危険という意味ではありません。
しかし、都市計画上、市街化区域を指定する際には、洪水や高潮、土砂災害などの危険性が高い土地をできるだけ市街化区域に含めない、という考え方があります。
その結果として、災害リスクの高い土地が市街化調整区域側に残っているケースも少なくありません。
そこに例外的な住宅開発が積み重なってきました。
過去の豪雨では、市街化調整区域で多くの被害
過去の大規模災害を調べてみると、興味深い数字があります。
平成30年7月豪雨では、洪水による屋内犠牲者47人のうち、16人、約34%が市街化調整区域でした。
令和元年東日本台風などでは、洪水による屋内犠牲者21人のうち、4人、約19%が市街化調整区域でした。
さらに、令和元年東日本台風で被害を受けた埼玉県東松山市高坂東部地域では、浸水した建物の91.7%が市街化調整区域に立地していたという研究結果もあります。
ただし、これは「全国の被災住宅の91.7%が市街化調整区域」という意味ではありません。
特定地域を調査した結果です。
全国の自然災害について、「被災住宅のうち何%が市街化調整区域だったのか」という統一的な統計は、現在のところ整備されていません。
千葉県の豪雨被害でも気になる市街化調整区域との重なり
今回、千葉県で発生した豪雨についても被害地域を調べてみました。
特に千葉市では、若葉区、緑区、花見川区などの郊外部で大きな被害やインフラ障害が発生しています。
千葉市の都市計画区域約2万7,200haのうち、市街化区域は約1万2,900ha。残り約1万4,300ha、約53%が市街化調整区域です。
今回、豪雨による影響が確認された地域には、野呂町、大宮町、大草町、辺田町、越智町、横戸町、柏井町、土気町、小食土町などがあります。
これらの地域の多くは、市街化調整区域を全部または一部に含んでいます。
特に千葉市若葉区や緑区の郊外部には、市街化調整区域が広く存在しています。
ただし「被災住宅の53%が調整区域」という意味ではない
ここは非常に重要です。
千葉市の約53%が市街化調整区域だからといって、今回被害を受けた住宅の53%が市街化調整区域だったということではありません。
また、「野呂町で被害があった」からといって、「被災住宅がすべて市街化調整区域だった」とも限りません。一つの町の中に、市街化区域と市街化調整区域が混在しているケースがあるからです。
正確な割合を出すには、被災住宅一棟一棟の所在地を都市計画図と重ね合わせる必要があります。
現時点では、行政からそのような集計は公表されていません。
国もこの問題を認識し、2022年に規制を強化
平成30年7月豪雨や令和元年東日本台風などで、市街化調整区域の住宅が浸水や土砂災害を受けたことを受け、国も制度を見直しました。
2022年4月から、市街化調整区域で例外的な開発を認める34条11号・12号の区域について、土砂災害警戒区域、土砂災害特別警戒区域、災害危険区域、地すべり防止区域、急傾斜地崩壊危険区域、人命に危険を及ぼす可能性の高い浸水想定区域などを原則として除外する方向に規制が強化されました。
これはある意味、「住宅を建てることができるか」だけではなく、「そこに住宅を建てて本当に安全なのか」まで考えなければならないという方向へ、都市政策が変わったとも言えます。
不動産購入では「建物があるから安心」と考えない
市街化調整区域の中古住宅を購入するとき、最も注意しなければならないのは、今そこに建物があるから、将来も当然建て替えられるとは限らないことです。
不動産を購入する際には、
・なぜ現在の建物が建築できたのか
・都市計画法上どの規定で許可されたのか
・再建築できるのか
・誰でも再建築できるのか
・用途を変更できるのか
・洪水浸水想定区域に入っていないか
・土砂災害警戒区域ではないか
・過去に浸水履歴はないか まで調べる必要があります。
特にこれから気候変動によって豪雨がさらに激甚化すると考えるなら、
「建築できる土地」と「住宅を建てるのに適した土地」は必ずしも同じではないという視点が重要になってくると思います。
これからの不動産選びで重要になる「土地の履歴」
不動産を購入するとき、駅から何分、築何年、何LDK、南向き、価格はいくらといった条件を確認するのは当然です。
しかし、これからはもう一つ、「この土地は、もともとどのような土地だったのか」を見る必要があります。
昔は田んぼだったのか? 川が流れていたのか? 沼地だったのか? 山を切り開いた土地なのか? 市街化調整区域だったのか? 過去に水害があったのか?
こうした土地の履歴は、建物の設備や内装以上に重要になることがあります。
今回の千葉県の豪雨被害を見ても、「どこに家を建てるのか」という問題を改めて考える必要があるのではないでしょうか。
市街化調整区域だから危険なのではありません。
しかし、
なぜその土地が市街化調整区域になったのか。
なぜそこに住宅を建てることが認められたのか。
そして、その土地にはどのような災害リスクがあるのか。
ここまで確認して初めて、本当の意味で安心して購入できる不動産と言えるのではないかと思います。
不動産を購入するときは、「建物を見る」だけではなく、「土地の過去と将来を見る」こと。
近年の豪雨災害は、私たち不動産業者にも、その重要性を改めて問いかけているように感じます。